異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「だんご四姉妹~」

「なんだその歌は」

「ひえっ」

すぐ近くから聞こえてきた声に驚いて飛び上がってしまった。

顔を上げて横を見ると、背が高くがっしりした青年がわざわざ腰を屈めがちにしてメグミを覗き込んでいた。

精悍で主張の激しそうなはっきりした表情を浮かべるその貌は、週に一度くらい来るだけの客でも、覚えやすく印象的だった。

しかも庶民とは思えない雰囲気を纏いながら、町の青年が服を着崩したような恰好をしている。

「こ、コラン様っ。え? いつの間に? 今日は早いですね……って、まだ暖簾を出していませんよ。こんな奥まで入ってこないでくださいっ」

ぐぐっと迫ってくるような顔を手で押し退けたいが、両手はいま粉だらけだ。背中を反らして顔を軽く背ける。嫌いなわけではない。この人に、こういうふうに近づいて来られると無意識でも避けてしまうのだ。

どちらかといえば小柄で細いメグミの二回りほどの大きさがあるし、何より、激情を映したような赤い光彩をちらつかせる両眼に押されてしまう。光を弾かなければ暗めの赤で、例えるなら小豆色の瞳だった。

二十八歳という男性の勢いが出てくる年齢も加味されているのか、何かを追い求める視線が、迫力があり過ぎて怖いくらいなのに見つめないでほしい。距離を取ってくれないだろうか。
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