異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
アルマはさすがに拙いと思ったのか、「ただの絵ではないのですか」と聞いてくる。
「両親の名前が書いてあったの。絵じゃないの。私の故国の字なのよ、あれは」
「名前……! 親の?」
目を見開いたアルマの顔が見る見る蒼褪めてゆく。彼女はいきなり謝り始めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。まさか親の名だなんて思わなくて……っ、申し訳ありませんっ。私、なんてことを……っ」
「どこの焼却場?」
「北側の、一番大きな……」
そこまで耳に入れたメグミは、アルマのことは放置して駆けてゆく。
――父さんっ、母さんっ。
走って走って、城の北側の一階から外へ出る。横長の広場になっているところには、木くずや材木など、大きなごみも集められていた。その横手に、煙突の突きだした鉄製の焼却炉が三個並んでいる。
急いでそこへ近寄ると、上の蓋を開けようした。そこで後ろから駆け寄った結構な年齢をしている者に強い力で止められる。この場所の責任者だ。
「触ってはいかん。蓋はまだ熱いんだ。手が火傷する」
「だって、位牌が、もえてしまっ……」
「朝の分はもう灰か炭だよ。あんたいつも廊下を走っている菓子職人のメグミだね? 待ちなさい。開けてみるから」
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