異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
突然現れたコンラートに抱きしめられて、メグミは心臓が喉から出るのではないかというほど驚いた。慌てもした。
彼の腕が心地よいと感じてそのままでいたいと思ったのは本当だ。
「コラン様……」
 コランの姿だったので、ついそう呼んだ。彼は迸るようにして語る。
「メグミは王妃にはなれないと言ったな。では恋人になってくれ。付き合いはずっと続けるぞ。王妃は病弱ということにして表には出さないから、テツシバで暮らせばいいだろう? そういう手もあるんだ」
コンラートは様々な方法を考えたに違いない。けれど、取り繕う方法手段が必要な関係になるしかないのだと痛感する。
上半身を押して離すとメグミは言った。
「そんな嘘は吐けません」
コンラートはため息交じりに呟く。
「頑固だな」
「はい」
「とりあえず俺は待つ。待つくらいはいいだろう?」
頑なに言っていても心は揺れ動いている。メグミは思わず頷いた。コンラートは重ねて頼んでくる。
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