君の子守唄
『彰人、家を出るぞ。』

中学生になった俺は………

なるべく、家に遅く帰るようにと部活に励んでいた。

薄暗くなり始めた空を見つめ

また始まるイジメに、ウンザリしながらドアを開けると

身なりを整えた兄貴が玄関で待っていた。

明日は土曜だから

いつものドライブかと思っていた俺は…………

兄貴の荷物の多さにびっくりした。

部屋の中身が全て持ち出され、段ボールに詰まっていたのだ。

『彰人!!
お父さんの次は、圭哉を取り上げるの?!』

鬼の形相で俺を睨んだお母さんは

初めての日に、頬をぶたれて以来の勢いで掴みかかってきた。

『彰人は何も悪くないだろう!!
怒るなら、親父を怒れよ。
もう決めたことだ!!
俺は彰人を連れて家を出る。』

兄貴に引っ張られ

またしても、着の身着のまま家を出ることになった。

俺は、この日を堺に

母親の旧姓の『笹山彰人』に名前を戻し

回りにも、兄貴にも

『ささ』という愛称で呼んでもらうことにした。

それからは………

高校、大学と通わせてもらい

卒業してからは、兄貴の喫茶店を手伝っていた。

軌道にのってからは、探偵の真似事の足しになるよう

夜のbarを始め、少しづつ自立することも覚えていった。




一度は施設にに行き

人の温もりを感じることなく生きていくはずだった。

それが………この兄貴と出逢い

沢山の人に関わることで………

声が出て、言葉を紡ぎ

今こうして、笑っている。

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