ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



夜9時過ぎ。
玄関だけでなくリビングにも灯りがついていた。


それは伶菜に再会する前にはなかった光景
廊下にほのかに漂う醤油と生姜が入り混じったような夕飯の残り香によっても
あたたかな生活がちゃんとここにあると認識できていて


そんなささやかな日常の風景も
ここに帰ってくることなんてほとんどなかった俺を
自宅まで連れてきてくれているきっかけのひとつになっていた



『寝ちゃったか。』


そっと開けたドアノブの向こうは
オレンジ色の豆球の灯りだけが点っていた寝室。
ダブルベッド上で向かい合わせになっているふたりの寝顔も俺の大切な日常の一部分。


いつもは彼女らの寝顔によって多忙な俺は癒されているけれど
今日という日をどういう気持ちで過ごしたかわからない伶菜の寝顔を見ると
・・・・少々複雑な気持ちになった。



『・・・・・・仕方ない、、か・・・』


本人に聞いてみるのが一番確実なんだろうけど
でも起こすわけにはいかないよな



俺は右手にぶら下がったままだった鬼まんじゅうの入った紙袋を持ち上げて彼女らの枕元に置いた。
その紙袋の存在に気がついた時の彼女らのリアクションを頭の中で想い浮かべ・・・
つい苦笑いをこぼしてしまった。



『俺も、風呂でも入って、横になって少し休むかな。』


そして物音を立てないように寝室のドアを閉めて、浴室へと歩く。

寝室も
洗面台も洗濯機周りも
それだけじゃない
殺風景だったはずのこの家の中の
どこにも生活感が溢れている


『さすがに、風呂場、、、冷めちゃったな・・・』

浴室の冷え切った床をどうにかしたいと
熱めのシャワーを出し、頭から被った。


その瞬間、先にここに入ったであろう伶菜のシャワージェルのかすかに甘い香りが俺の鼻先を掠めた。



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