ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
「・・あ、あの、日詠先生もお、忙しそうなので・・・また後にで」
忙しそう?
なんでだよ
勤務中、カウンセリングルーム以外ではなかなか会うコトはできない伶菜がわざわざここまで来てくれたのに
ヤバイ・・・
勝手に口元が緩む
いつだって彼女のその柔らかい声が俺に
穏やかな気持ちと頑張ろうという気持ちをもたらせてくれるから
『あっ、いいよ。今でも。』
俺は口元が緩んだまま彼女のほうを振り返ってそう言った。
けれども、産科病棟ナースステーションの入り口で緑色のカルテを両手で抱えて突っ立ったまま動けないでいた伶菜。
なで肩の彼女なのに、イカリ肩に見えるぐらい両肩がすくんでしまっていて。
「また、また後で伺います・・」
彼女に集まってしまった数々の視線になんとか応えようとしているのか、彼女は必要以上に口角を引き上げながらそう言った。
伶菜
俺に聞きたいコトがあってここまで来たんだろう?
でなきゃ、周囲に対して用心深くなっているお前がここまでわざわざ来たりはしない
そうだろう?
だったらちゃんと今、俺に聞け
いくらでも教えてやるから
周りは気にするな
臨床心理室の新人であるお前の働きぶりはどうなのかを窺っているだけだから
お前らしく丁寧にやればいいから
『忙しくないから、大丈』
「の、後ほどでいいです・・・し、失礼しま、、す」
彼女は俺に”大丈夫”と言わせてくれないぐらい慌てながらそう言って、深々と頭を下げ姿を消してしまった。
俺は今ここで
伶菜に
まだ何もしていないのに
さては伶菜、
さっきの看護師達の話を耳にしたのか?
いつから聞いてたんだ?
『・・はぁ~、なんでこうなるんだよ・・・』
「残念ね~ナオフミくん。アナタの大切なレイナ、58秒で帰っちゃった♪」
『・・58』
「そう、58秒。ウチのスタッフ達の視線がよほど怖かったのね~ククク、面白くなってきたわ~・・・ナオフミとレイナ、”こんなに近くにいるのに俺達は遠い”・・・ドラマみたい」
『・・・・・・・・・』
「それでも、輸血同意書の説明もちゃんとやっておくのよ~患者さん、病室で待ってるから~♪」
小さく溜息をこぼした俺の耳元で囁く福本さんが
看護師長でなく家政婦
いや、悪魔に見えた
それこそは
俺の気のせいだったんだろうか?
でも
この時、福本さんが口にした
”こんなに近くにいるのに俺達は遠い”というその言葉は
今から思うと
これからの俺達を端的に表していた言葉だったのかもしれない