ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
自分のクライアントである白川さんの状況が気になって、落ち着いてなんかいられなくて。
早川室長はそんな私を想定していたのか
彼女の計らいで私はこの日、他のクライアントの予約を入れなくてもよしとなっていた。
しかも、院内のどこにいてもいいとのお許しまでも出て。
だから朝8時半すぎに向かった手術室の待合室。
自分が一番ノリと思っていたそこには
「伶菜先生!」
先客がいた。
『おはようございます。とうとうですね。奥様はもう・・』
「いえ、まだ病室です。追い出されてしまったんですよ。“大丈夫だから”って。」
手術室総合入口前の待合い用ベンチに腰かけていた白川さんの旦那さんはそう言いながら苦笑いを浮かべる。
手術室の総合入口。
この病院は診療科目が多いこともあってか手術室が複数ある。
そのせいもあってか昼間は患者さんや家族の出入りでバタバタしているけれども
早朝だったこの日はどうやら彼が一番のりだったみたいで、辺りはまだ静けさに包まれていた。
彼が腰かけている傍らには
開封はされているもののまだ口にしていないらしい海苔が湿り始めているおにぎりとペットボトル緑茶が置かれていた。
食べようとしたけれど、いざ、口へ運ぶ余裕がなかったんだろうか。
白川さんのことが心配で仕方がないという旦那さんの気持ちがそんな様子からも伝わってきた。
『奥様の気持ち、なんとなくわかります。心配かけたくないから強がっちゃう・・みたいな。』
「心配かけたくない、か。」
『でも、心の奥では傍にいて欲しい・・・だからここで旦那さんが待っていて下さるのは心強いと思いますよ。きっと。』
“俺なんかでも役に立つんですかね。” と小さな声でそう呟き、ポリポリと頭を掻いた白川さんのご主人。
『実は私も旦那さんと同じ心境かも。』
「えっ?伶菜先生が?!」
彼がそう問いかけたその時、
「あなた・・・」
病衣姿で車椅子に乗っていた白川さん。
彼女は付き添いの看護師さんに車椅子を押されながら私達のほうへ近付いてきた。
その背後から
『ナオ・・・・・』
既に手術室内で待機していると思っていた手術着姿のナオフミさんがこちらに向かって歩いてきていた。