ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
ピッ、ピッ、ピッ・・・・
心電図モニターの心拍音がやや速いリズムで鳴り響いていて。
白川さんはおそらく緊張していたのだろう。
『白川さん、お待たせしました。』
「日詠先生・・・」
『体調変化には充分に気を配って進めますが、気分が悪かったら、遠慮しないで声かけて下さい。』
全身麻酔ではないため、彼女とも会話ができた。
俺の問いかけに丁寧に頷いてくれたのを確認し、手術を始めた。
『皮膚切開してトロッカー挿れます。』
自分が執刀医として始めて行う手技。
研修中は助手としてこの手術には何度も立ち会っていたが
立ち位置も役割も変わるとやっぱり緊張した。
『内視鏡、準備して下さい。』
勿論、上手く進むイメージだけでなく
難航する想定もイメージして準備を進めてきた。
「日詠先生!!!! 血圧、下が40切っています・・・」
『血圧・・・。』
だからこの瞬間もいろんなことを想像した。
判断を間違えば
母子ともに目の前で息が止まり
そして
心臓も止まる
最悪の状況が頭を掠めた俺は
・・・・右手に持っていたメスを置く。
そして慌てず確認する
母体を
胎児達を
なにが原因で母体の血圧が下がっているのかを
慎重に
冷静に
初めての手術だからって
焦らなければ
答えは必ず見つかるはずだ
『迷走神経だな。』
「どうしますか?硫アト、使いますか?」
自分だけではなく
俺にそう声をかけた麻酔科医師からも焦りの色が感じられた。
でも
何があっても自分を信じる
伶菜に教わったように・・・・
『いや、胎児への影響が心配だから・・・まずは、硫アトは使わず、ショック体位対応で。』
「わかりました。バイタル確認しながらそっちを挙げて!」
それからというもの手術室内に慌しい空気が流れて。
既に挿入してあるトロッカーを把持したまま、俺は麻酔医によって血圧コントロールされ始めた白川さんの様子を見つめていた。
『白川さん、少し顔色、良くなってきたみたいですね。』
「・・・あっ、ハイ。」
俺は白川さんの胸元にある衝立越しに彼女の表情を確認し声をかけた。
まだしんどそうだったけれど、しっかりと返事をしてくれた彼女。
『お腹の中の赤ちゃん達も大丈夫なので、安心して下さい。』
「・・・ありがとうございます。」
そう言って笑ってくれた白川さん。
「日詠先生、血圧、戻りました。もう大丈夫です。」
『わかりました。じゃ、内視鏡、入れます。白川さん、ちょっと違和感があるかもしれませんが、痛くはないのでラクにしていて下さいね。また、しんどくなったら遠慮なくおっしゃって下さい。』
俺はもう一度衝立越しに彼女の表情を確認し、自分の判断に間違いがなかったことを確かめ、手術操作を再開した。