ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



『・・・・・』

そんな俺に構うことなく
俺の手を引く伶菜はどんどん前へ進んでいて。

その横顔を見ても
いや
なぜかその横顔を見たら余計に
俺は本能に駆り立てられた自分勝手な考えを抑え込むことができなかった。


『・・・・・』



その自分勝手な考えは
伶菜がただ勢いに任せて俺を求めるのならば
俺は応えてはいけない

でも心の底から俺を求めるのなら
もう迷わない
俺は伶菜の全てを自分と重ねる

ということ



手を引かれて歩き続けながらも
そう考えていた俺は気がついた。

自分勝手と思っていたこの考えの主導権は
どうやら
今、俺の手を引いて歩いている伶菜が握っていることに。

俺はこの後の俺達の行く末を
伶菜に委ねなくてはならないことに。




ガチャッ・・・・


伶菜によって開けられたドア。
見覚えのある空間。
独特のニオイがする。

ついこの間、すれ違っていた俺と伶菜がようやく向き合えた場所。
病院の資料室。
相変わらず薄暗い中でパソコンの起動音のみが響き渡っていて。

俺が一息つく時に利用していた秘密の場所でもあるここ。
なぜ、ここに連れてきたんだろう?



『なにか、調べものでもあるのか?』

「・・・違います。今は・・・」


首を横に振りながら、書庫の間を縫うように進んでいく伶菜。
その先には、よくここを利用する俺でも
気がついていない空間があった。
書庫の隅にあった“staff only”とプレートが掲げられているパーテーションの奥の空間。


いつもの俺なら
その空間に何があるのかなんて全く興味なんてなかった。

でも伶菜は
staff onlyの掲示に怯むことなく
その先に足を踏み入れた。


初めてそこに立ち入る俺の目に飛び込んできたのは
製本予定と黒太字のマジックペンで書き込まれたダンボールと
本を移動する際に利用するカート
そして

「私、覚悟、、、ちゃんとしてる。だから・・・」

軽く3人は座ることができるであろう
グレーの柔らかそうな布張りのソファーだった。


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