ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
「今日はもう遅いから明日にでもかかりつけの産婦人科に受診して妊娠検査してもらって下さい。」
針を刺された跡を更に強く押さえることに意識が向いていたせいか、勝手に耳に滑り込んできた妊娠検査という言葉がどこか他人事のように思われた。
「その結果をみて、ウチでアレルギーの検査結果に基づいて薬の処方を考えるから。紹介状、書くからかかりつけの産婦人科を教えて。」
『・・・・・』
「日詠さん?」
採血中も笑顔で対応してくれていた先生だったけれど
私の反応の薄さに気がついたのか、心配そうに顔を覗き込んできた。
『あ、ハイ。』
「かかりつけの産婦人科ある?」
産婦人科
出産前から祐希の心臓手術を終えるまでいた東京では通院していたけれど、名古屋へ戻ってから受診した覚えがない
子宮がん検診は健康診断を専門に取り扱う医療機関で受けていて
結果も異常なかったから
『ないです。』
「初めての妊娠?」
『いえ。ひとり子供がいます。』
先生にどう伝えると、彼女は慌てて電子カルテを見直すためにパソコンのマウスをカチカチとクリックし、しばらくの間、画面を凝視していた。
「日詠さんって珍しい苗字だけど・・・もしかして、ご主人は産科医師だったりする?」
診療科目が違っても
ナオフミさんの存在を知っている人がいるんだ
そんな人の奥さんということを明らかにすることは
なんだか気後れしてしまうけれど、
嘘をつくわけにはいかないよね
「南桜総合病院の日詠先生?!」
『ええ、まあ』
彼女はその視線を画面から私のほうへ動かし、品定めをするかのように私をじっと見つめる。
その後、想像通り、目の前の女医さんは信じられないという表情を隠せてはいなかった。
「ご主人なんだ~。内科医の私でも知っているわ。この前も胎児の難しい手術を成功させたって。東京まで患者さんを行かせなくても、名古屋で高度な治療を受けさせてあげられるようになるって、知人の産科医師や小児科医師の間で話題になってたもの~。」
穏やかそうな先生がやや興奮気味にそう言いながら再びパソコンの画面に視線をずらしてまたマウスをクリックし始めた。
彼女の目がとらえたのは問診表をスキャンした画面。
どうやら私の勤務先の記入欄を確認したようで。
「しかも、日詠さんも同じ病院で働いているんでしょ?だったら、産科の日詠先生宛に紹介状を書いたほうがいいかしら?」
『・・・・・・』
産科の日詠先生宛の紹介状
私がナオフミさんに
妊娠しているかどうかを診察してもらう
そういうことになるの?