ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
「日詠さん?」
なかなか返答しない私に先生は何か事情があると感じ取ったようで
さっきまでの興奮気味だった彼女が別人であるかのように心配そうに私の名前を呼んだ。
自分だって妊娠してるかも・・なんて意識していなかったのに
突然、私が紹介状を持ってナオフミさんの外来診察に現れたら
どう思うだろう?
妊娠しているかもしれないことは凄く喜んでくれると思う
祐希のこともあんなにかわいがるぐらい子供好きみたいだし
でも、祐希を妊娠していた頃のことも過ぎってしまい
ナオフミさん宛に紹介状を作成してもいいかという先生の問いかけに
やっぱりすぐには応えることができなかった。
祐希を妊娠していた頃
駅のホームに偶然居合わせたナオフミさんに助けられて発覚した妊娠だった
少しずつ大きくなるお腹を主治医として見守っていてくれた彼
でも、彼ひとりが主治医だったわけではない
彼の先輩医師だった女医の奥野先生も私の主治医として診て下さっていて
子宮に直接触れ状態を確認する内診は奥野先生にやってもらっていた
その頃はなんで主治医である日詠先生がなんでやってくれないの?と不思議に思ったりして・・・
“高梨さんの内診はどうしてもできない” とナオフミさんから頼まれて、共同で担当することを引き受けたことを奥野先生から教えてもらった
でも、不安の大きかった妊娠生活をずっと支えてくれていたのは
妊婦検診の際に自分の言葉に丁寧に耳を傾けてくれていたナオフミさんだった
そんな中、胎児だった祐希の心臓に異常があることがわかった時
ナオフミさんは私に東京の大学病院への転院を薦めた
私は彼にずっと出産まで見守って欲しいとすがったけれど
彼は “俺はできない” “キミの兄だから” と打ち明け診察室から消えた。
そして私は
祐希の心臓病が発覚したことだけでなく、ナオフミさんが自分の兄であったという告白に驚き気を失ってしまった。
数時間後、診察室のベッドの上で気を取り戻したが、そこに彼の姿はなかった。
でも、かすかに揺れていた診察室のドアの向こう側に
彼の存在を感じ、彼のためにも頑張らなきゃと心に誓ったけれど
・・・・・主治医である彼の手を掴めなかった
・・・・・産科医師である彼の自尊心を傷つけた