ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
彼と幸せに暮らしている今でも
密かに後悔している
そんな過去は私の心の傷跡だ
臨床心理士となって
医師である彼と患者さんを一緒に支えることで
その想いが昇華できると思っていたのに
実際に従事するようになっても
やっぱりその傷跡は残ったままで
彼も私の前ではその過去を掘り起こそうとはしないが
おそらく、彼の心にもまだ
それが傷跡となり残っているんだと思う
お互いにそれに触れようとしないだけ
わざわざ触れなくても
ふたりは上手くやっていける
・・・・・そう思ってる
逆にそれに触れるようなことで
ふたりの関係が崩れてしまうのが怖い
だから、ナオフミさんは
優しくてあったかくてかけがえのないダンナ様という存在のままでいい
頼りになる遺伝相談チームの先輩という存在のままでいい
たとえ
自分の主治医じゃなくても・・・・
『違う病院を紹介してください。』
私はようやく目の前にいる先生に返答した。
先生は一瞬眉をしかめたけれど、私をじっと見つめたのち、首を小さく縦に振った。
「わかりました。じゃあ、ご自宅の近所にある産婦人科クリニックでもいい?」
『ええ。お願いします。』
もしかしたら2度目の妊娠かもしれない私
初めての妊娠の時は
主治医になってくれる人に偶然救われる形で出会った
でも今回は
自分の意思で主治医を選んだ
ナオフミさんではなく
顔どころか名前すら知らない医師を
私は
自分の心にある傷跡に触れることから
そして
彼の心にもあると思われる傷跡に触れることからも
こうやって逃げた