ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活


だからごめんなさいと頭を下げ続けていた彼女に今度は自分から声をかけた。


『頭、上げて下さい。』

「でも・・・」

『あの夜のこと、すごくショックでした。』

「・・・・・」

『あの時、ナオフミさんと気持ちがすれ違ったまま、彼はドクターコールで呼ばれたから。』

「やっぱりそうだったんだ、それなのに私・・・・」


下唇を小さく噛んだ彼女。
あの夜の自分を悔いているのがその姿からもよくわかった。

それなのに

『でも、大切なキスはたったひとつだけ・・・私とのキスだけだって改めて気がついた・・・・・そう言ってくれました。』

今後も彼をずっと想い続けるかもしれない彼女にとって残酷な言葉に違いないと思ったけれど、伝えずにはいられなかった。
建前で“気にしていないです”というほうが
もっと彼女を傷つける・・・そんな気がしたから。


『それで充分なんです。それでお腹いっぱい。』

「伶菜ちゃん・・・」

『ナオフミさんに敢えてそう気づかせてくれたのは奥野先生だって・・・そう信じてますから。』

「そんな・・・・」


いつも凛としていて強さを兼ね備えている印象が強い彼女の瞳が
大きく揺れた。

ナオフミさんが言っていたことが
建前ではなく本音だったことは
彼とキスしてわかった

もし、彼の中で私に対して(やま)しい想いがあったりしたら
あんなに彼の気持ちが伝わってくるキスはしない

そんなキスを彼にさせてくれたのは
奥野先生なんでしょう?




『だから、奥野先生が私に対してできることは罪悪感を抱き続けること・・・じゃない。』

「伶菜ちゃん、でも・・・」

『私が奥野先生に望むのは、また私の主治医になってまた支えて欲しいということです。』

「・・・主治、医?!」

『私、妊娠しました。だから・・・・』


ナオフミさんとの子供を妊娠したことが判明したこの時。
彼には主治医という立場ではなく父親という立場で傍にいて欲しいと思った。

どうしたらいいのかわからずに手探り状態で動き始めたけれど・・・・妊婦である自分を再び導いてくれるのはこの人だと思った。

だから私の体の中で起こっている現実と自分が望むことを彼女にそのまま伝えた。


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