ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
『俺も、祐希に一緒に伝えていく。俺が親父から伝えてもらったようにな。』
「お父さんから?」
『ああ。上手く伝えられるかわからないけどな。でも、俺が聞かされた時は、兄になる嬉しさとお袋を守らなきゃという使命感を抱いたっけな。』
「どんな風に言われたの?」
『それは親父との男同士の秘密・・・ってやつだな。』
「ずる~い。教えてよ~」
頬を膨らまして拗ねたマネをして見せた伶菜だったけれど
さっきまでの躊躇い気味の表情ではなく
7才だった俺に妊娠したことを聞かせてくれた時のお袋のような
そんな穏やかな顔に見えた。
その顔に安心し、こうやって丁寧に彼女が発する気持ちに応じていけばいいんだと改めて感じた。
だから、その後も彼女が躊躇う理由を詳しく聞きだすことはしなかったし、彼女が今、妊娠何週目でどこの産婦人科に通っているかについても触れなかった。
祐希を妊娠していた伶菜の主治医を途中で自ら降りた俺が
どんな医師が彼女の主治医になったのか?と品定めをするような資格はないと思っていたから。
主治医という立場だったのに
愛しいという想いを抱いてしまったせいで、彼女の内診すらできなかった
大切な新しい命が危ないかもしれない事態に
自分の腕を信じることができずに
他人に彼女と新しい命を委ねてしまった
そんな過去が俺を弱気にしたせいで
主治医は俺以外の人間でもできる
でも
彼女のパートナーは俺だけだと自分に言い聞かせた。
自分の中にある育ての両親との幸せな記憶を伶菜と祐希に伝えていくこと
そして
今度は彼女達と自分が新しい幸せな記憶を一緒に刻んでいくこと
それらも・・・自分が彼女達にしてやれることだよな・・・
相変わらずな気持ちいい青空の下。
この時の俺はそんなことを思っていた。
彼女が口にした “どうしたらいいんだろう?” という戸惑いが俺自身に向いていたことも知らずに・・・・・。