ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活


「はい、コレ。日詠クンにも渡してあげて。こうでもしなきゃ、どこの病院に通院しているとかをなかなか言い出すきっかけはないでしょ?」

『両親学級・・・ですか。』

「そうそう。コレに父親が参加しないと、出産に立ち会えないのがウチの病院のルール。」

『え?彼、出産、立ち会うんですか?』

「日詠クン、心配性だから、立ち会うって言い出すかもよ。」

『ナオフミさんは奥野先生のこと、信頼してるから・・・そんなことは考えないかも・・・・』

「ソコじゃなくて・・・陣痛で苦しんでいる伶菜ちゃんをひとりにしておけないんじゃない?」


妊娠5ヶ月になった私に主治医の奥野先生から
“ちゃんとコレ、日詠クンに渡すのよ!” と突きつけられた1枚の紙。

両親学級の開催のご案内。


おそらくナオフミさんが彼女に何も言ってこない状況に
“さては妊娠したことを伝えてないな” と彼女が痺れを切らした結果だと思う。

「ドクターは両親教室で教えるばかりで、講義を聞く機会がないから新鮮かもよ。」


彼に妊娠したことは伝えていたけれど、どこに通院しているかは打ち明けられていなかった。
それについて彼は何も聞いて来なかったけれど、おそらく気になっているとは思っていた。
奥野先生がもたらしてくれた前向きになれるヒントが私の背中を押してくれて。


夜勤で彼が不在だったその夜。
病院名と両親学級の講師でもある奥野先生の名前が記入されている案内用紙に、“もし仕事と重ならなかったら、一緒に参加しませんか?” というメッセージも添えて、ダイニングテーブルの上にそれを置いた。

仕事に行っている彼に会えない状況に
こんなにも安堵したのは滅多にないことだった。

通院している病院名と講師名を知った彼にその場で向き合うか
それとも
時間をあけて向き合うか
どう考えても後者のほうがお互いに冷静に向き合える
だからこその安堵


“メモ、見た。俺も参加する。”


そして、夜勤明けで帰宅した彼からの相変わらずな簡潔なメールに気がついたのは昼休み。
このメールでは彼の気持ちを読み取ることはできなかった。
直筆ならメールよりももう少し感じ取れたかもしれないけれど。
すぐに触れられる距離にいない現在の状況では直筆の返事を受け取るのは無理だよねと苦笑いをこぼした時だった。


コンコン!



カウンセリングルーム3番の部屋でいつものように机に突っ伏していた昼休み。
ドアをノックする音が聞こえた。



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