ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活


自分が教えることばかりだった両親学級に
自分が教わる立場で参加することはもちろん初めて。

「ナオフミさん、さすが、上手だった♪」

奥野さんに操られている俺を楽しそうに眺めていた伶菜を見て
ようやく参加してよかったかもなと思えた。


両親学級終了後、病院内の託児所に預けていた祐希を彼女と一緒に迎えに行こうとしたが、


「私が迎えに行って、院内のカフェでおやつを食べさせるから・・・ここで待っていてくれる?」

『それなら俺も付き合うぞ。』

「ううん。いいの。ナオフミさんはここに居て。」

と押し切られ、俺は両親学級の部屋に取り残される形となった。
なぜ俺が一緒に祐希を迎えに行かなくてもいいのかを聞くタイミングすら与えてもらえないまま。

他の参加者達は既に帰路につき、誰もいない部屋に自分ひとり。
それとかなりリアルに創られた女性の人体模型が一体。

『さっきはどうも。』

茶色の瞳までもリアルすぎて、とりあえず挨拶してみた。
講義中は気にも留めなかったけれど、緩いウエーブのかかった柔らかそうな髪のせいか、なぜか伶菜とダブって見えてきて。
俺はひざ立ちの格好を取り、掬い上げるようにその人体模型の右手を取った。


『まだいきむな。堪えろ。』

『ゆっくり息吐いて。』

『まだだぞ。そのまま落ち着け。』

『苦しいけど、あと少しだ。』


人体模型を伶菜に見立てて分娩時の予行練習をしてみた。
誰もいないからできること
分娩時、苦しがる妻の手を握り励ます夫
そんな状況を思い浮かべた。


人体模型だからこうやって言葉が出てくるけれど
実際のところはどうなんだろうな
伶菜の苦しそうな顔を見たら
俺は動揺しないでいられるんだろうか?



「数知れずの患者を診ている産科医師でも、視点が変わると戸惑うもの、なのね。」

『・・いつから、いたんですか?』


誰もいないと思っていたこの場所の入り口に奥野さんが腕組みをしながら立っていた。
さっき伶菜が逃げるようにここを後にしたのも、奥野さんがここにいる理由のひとつのように思われた。

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