ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
「日詠先生。お疲れ様でした。書類は私が医局に運んでおきますので、奥様のところへ駆けつけてあげて下さい。」
残り5人の患者さんの診察を終えた直後。
伶菜の現況を知らないはずの産科外来のベテラン看護師が俺の手元にあった書類を引き抜きながらそう言ってくれた。
なんで知ってるんです?と首を傾げた俺にその看護師は
「病棟の福本看護師長から奥様が産気づいていると聞きました。日詠先生が奥様の様子に気をとられ上の空になっていないか注意しても見てあげてとも。あと、診察終了したらすぐに解放してあげてということも・・・なのでPHSもお預かりします。」
と早口で説明をした後、笑いながら首にかけてあったPHS用ストラップまで引き抜いてしまった。
「ほらほら急いで。こんな時ぐらいは焦らないと!」
そして背中を押され、診察室から追い出されてしまった。
ベテラン看護師の押しの強さに息が詰まりそうで、
とりあえず、深呼吸してから次の行動へ移そうとした時、
「日詠先生。タクシーを玄関に待たせてあります。」
診察室の出入口から2,3歩離れた距離に
両手でバインダーを抱えた産婦人科専属の医療秘書の片平さんが立っていた。
「名古屋城北の奥野医師の医療秘書より伝言を預かっております。奥様は現在、陣痛室いらっしゃると。」
『わかった。タクシー、ありがとう。』
「いえ。」
いつもの片平さんの穏やかな笑みにも背中を押される気がした。
「日詠先生、着ていらっしゃる白衣をお預かりします。」
『あっ、コレ、忘れてた。』
俺はすぐさま着ていた白衣を脱いだ。
手術予定が入っていなかった今日、外来診察はネクタイ姿に白衣を着て行っていた。
医局のロッカーまで背広を取りにいく時間も惜しくて
Yシャツにネクタイ姿のままタクシーに乗り込もうとした。
「日詠先生、夜、少々冷えるかもしれないですので、コレ、使って下さい。それでは、運転手さん、名古屋城北病院までお願いします。」
片平さんはテキパキとタクシーの運転手に行き先を告げながら、俺に紙袋を手渡してくれた。
「それでは、行ってらっしゃいませ。」
紙袋の中身を確認し御礼を言う隙を与えてくれないまま、片平さんはタクシーの後部座席のドアを閉めた。
「ご乗車ありがとうございます。行き先は名古屋城北病院でよろしいでしょうか?」
『ハイ。お願いします。』
「ご希望の道とかありますか?」
『特にはないです。』
「ではなるべく早く到着するようにしますね。」
『お願いします。』
タクシーの運転手は、無線で行き先を報告した後、運賃メーターのボタンを押しアクセルを踏んだ。