ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
混雑している幹線道路を避けて、比較的空いている裏道を進むタクシー。
いつもなら、つかの間の休息になるはずのこの時間。
この時は時間の経過ばかりが気になって。
俺は逸る気持ちを落ちつかせるように
ネクタイを少しだけ緩め、ふっと息をついた。
「この道、先日、妊婦さんを乗せて走ったのですが、行き先も同じでしたね。ここらへんなら南桜病院のほうが近いですよね?」
『まあ、そうですね。』
伶菜が今、どういう状態かが気になる俺は
心ここにあらず。
「ウチの自宅のこの近くで、妊娠している嫁さんは南桜病院に通っているんですけどね~。
主治医が偉そうなおじさんらしくて。嫁さんの友人も妊娠しているらしいですけど、彼女はなんかえらいカッコよくて腕のいい先生で羨ましいって言ってたんですよ。」
『そうなんですか・・・』
愛想よく話してくる運転手の話に二つ返事するような応対をしてしまう始末。
彼の話がすれ違い様に耳に滑り込んでくる他人の会話みたいに聞こえるぐらい......やっぱり落ち着かなかった。
・・・1分1秒でも早く伶菜の元に駆けつけたい
診察中には考えないようにしていたその想いが
頭の中のほとんどを占めていた。
「でも、この前、この辺りから乗車して頂いた妊婦さんは、南桜じゃなく城北病院までお願いしますって言ってたな~。城北まではちょっと距離あるのに。」
この辺りから城北病院までという自分と同じ共通項がある彼の話に俺はようやく気を留めた。
「それでね~、その妊婦さんになんで城北病院?って聞いてみたんですよ。そしたら、“ダンナさんにお父さんになる気持ちをじっくり味わわせてあげたいから”って・・・・」
ダンナさんにお父さんになる気持ちをじっくり味わわせてあげたい
確かによくわからない理由だよな
そのために近所であるウチの病院ではなく
少し距離のある城北病院へ通院するとは・・・・
「なんだかよくわからない理由だったけど、ボクももうすぐお父さんになる立場だから、なんかじ~んときたんですよね。」
お父さんになる気持ちをじっくり味わわせてあげたい
じっくり
城北病院
あっ
もしかして、だ・・・