ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



2570円と表示された運賃メーター。

一刻も早く伶菜の元に到着したい俺は財布の中にあった五千円札を運転手に差し出しながら、急いでいるので釣りはいらないと告げ、タクシーから降りようとした。
けれども彼はそれを受け取らずに押し返してきた。


「お客さん、運賃はさっきいた病院職員さんからタクシーチケットで受け取っていますから。」

『そうなんですか?』

「病院の経費では落とせないので、その職員さん宛に請求書を送って下さいとのことでした。・・・“ささやかだけど、いつも頑張っている先生を応援したくて。” だそうです。」


こうやっていろいろな人が
俺と伶菜を応援してくれている


『そうですか。ありがたいです。立会い出産、間に合いそうです。運転手さんもどうもありがとう。それじゃ。』

「あっ、お客さん。紙袋、忘れてます。」

『おっと。いけない。』


紙袋を引き寄せた俺に
運転手はイチゴ柄の紙に包まれた小さな飴を2つ差し出した。


「あとコレ。奥さんにも頑張ってと伝えて下さい!」

『ありがとう。』

「あと、お互いに頑張りましょう。お父さん同士。」

『ええ。』


新しい命に出逢えるであろう今日という日は
おそらく
俺達を見守っていてくれる様々な人に感謝する日になるだろう

そんなことを思いながら
運転手に貰ったイチゴ飴の1個を胸のポケットに入れて
もう1個のほうは包みを開けて口の中に放りこんだ。

口に広がった懐かしいイチゴミルクの味が
浮き足だっていた俺の肩の力を抜いてくれた。

『まずは陣痛室を探そう』

病院玄関に降り立った俺に落ち着きを取り戻そうと
仕切り直すきっかけももたらしてくれた。


こうやって
伶菜独特の癒しの魔法が
他人を介して俺にも届いた。

その魔法によっても背中を押され
彼女がいるはずの陣痛室へ足を向け
そして一歩踏み出した。


その一歩が

俺と伶菜の
激動の日々の始まりだとは知らずに・・・



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