ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



その信じるという気持ちが
なかなか踏み込めなかった伶菜がいるカーテンの囲いの中へ導いてくれた。
そして俺はベッドに横たわっていて反応を見せない伶菜の手をとり、ぐっと握ってやった。

その手は
少しひんやりしていたけれど
その柔らかさは変わってはいなかった。

その手を自分の頬に引き寄せた。
せめて温めてやりたかった。



『まだ一緒にやること、いっぱいあるだろ?』

頬を伝わるやや冷たい彼女の体温。
ぴくりとも動かない指。


『祐希もベビーもお前を待ってる。』

彼女の小指に自分の左手を重ねる。


『患者さん達だって順番待ちだ。伶菜のカウンセリング予約をな。』

彼女の手の甲に浮き上がっている細い腱を自分の人差し指で擦った。




『でも一番、お前を待っているのは、、、、俺。』

頬から彼女の手を離して、自分の右手の指を彼女の指に絡めた。

 

『ただ笑ってくれればいい・・・“もっとしっかりして!!!” って怒ってくれるだけでも構わない・・・だから、戻って来いよ・・・』


俺の問いかけに応える彼女のいつもの明るい返事は聞こえなくて
そのまま天を仰いだ。

ただ無機質な白い天井しか見えなかった。


目の前に横たわっている伶菜は
この天井すら見えていないのだろうと思い
彼女と同じように目を閉じた。



『伶菜・・・・・・・』



その瞬間
俺の目から
とうとう涙が溢れた。


泣いちゃダメだ
伶菜も、赤ん坊も頑張っているのに・・・


そう思っていたのに堪え切れなかった。



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