ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



こんなに涙を流したのはあの日以来だった。

あの日・・・・
祐希を妊娠していた時の伶菜に
自分は彼女の主治医を降りると告げた時だった


彼女とお腹にいた祐希を救ってやりたくても救ってやれる環境がなかった
俺自身の技量に対する不安も大きくて・・・・

自分にとってかけがえのない存在になっていた彼女達に
何もしてやれない自分が

歯痒くて
悔しくて
情けなくて

彼女を診察室に残したまま、隣の処置室のドアにもたれて涙を流した


でも伶菜がその時、
診察室のドア越しにいた俺に語りかけてくれた言葉


“先生も私みたいな妊婦さんの為にちゃんとメスを握って…ちゃんとその神の手を差し伸べてあげて……”

その言葉が医師としての俺をここまで支えてきてくれたんだ

そしてその後の伶菜と祐希の頑張りに
俺が勇気をもらっていた


でも、あの時と同じような涙を流した今
あの時のように俺の背中を押してくれる伶菜の声は聞こえない
生まれたばかりの赤ん坊の様子だって
まだわからない


伶菜と赤ん坊がこんな状態になっているのを
祐希が知ってしまったら・・・と思うと
胸がキリキリと痛くなる

祐希も
赤ん坊の誕生を待ちわびていたし、
そのために伶菜に甘えるのも我慢していたようにも見えた


目の前で横たわる家族が生死を彷徨っていることを知ること
そんな耐え難い辛い想いを彼にさせてしまうかもしれないと思うと
胸が引き裂かれそうな感覚を覚えずにはいられない

まるで
育ての親である高梨拓志の命が目の前で消えていくのに立ち会った幼い頃の俺を見ているようで・・・



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