ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
『こういうところ、縁なかったのにな~。』
狭くて何かとワイワイと賑やかな整形外科病棟とは異なり誰もいない広い廊下
もうひとつのドアのセンサーに手をかざして開けると
そこは手術室に似た薬臭い匂いが充満している
ナイロン布製のカーテンに仕切られたベッド達に囲まれるように設置されているナースステーション
ドクターとナースが慌しく動いておりこっちまで緊張する
それに背を向けてレイナのいるベッドをひとつひとつ探す
数々の高度医療機器に囲まれベッドに横たわっている患者をチラ見して、その人がレイナでないか確認して廻る
“この人じゃないよな?・・・この人じゃなくてよかった・・・”
医者として不謹慎な想いを秘めながら歩く
一歩一歩がいつもの俺ならあり得ないぐらい重くて
そしてようやく最後の一角に差し掛かろうとした時だった。
『・・・いた。』
ウチの整形外科病棟のものより明らかに高度な機能がありそうな心電図モニター
タワーのように積み上げられた数々の点滴用シリンジポンプ
それと体をつなぐ数本のルート
シュッシュッと規則正しく音をたてる人工呼吸器
それらに取り囲まれ、目を閉じたまま横たわる
ふわふわのやわらかそうな長い髪の女
そして
その人の顔のほうを向いて
彼女の左手を支えながら
指輪が嵌っているその白く細い薬指を
親指でゆっくりと撫で続ける男
いつものオレなら
その男を押し退けてでも
女のもとに駆け寄るはず
“レイナ!!!大丈夫かよ?”
“ほら、目、覚ませって!!!!”
“新栄の焼肉、いつ食いに行くんだよ?”
・・・・・って
でも、今は近づいてはいけない
・・・そう思った。
ふたりだけに流れる時間を
壊すようなことはしてはいけない
・・・そうも思った。
俺は手にしていたカトレアの模様が描かれた真新しい紙袋を渡してやることなく、踵を返しその場を離れようとした時
「もう3日。目を覚まさないの・・・」
『・・・盗み聞きオンナ?!・・・じゃなくて奥野さん・・・・』