ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
背後から聴こえてきた声は全くと言っていいほど力がなかった。
心配になって振り返ると
奥野さんが今にも泣き出しそうな顔をしている。
ウチの病院に彼女がいた頃から医局で時々顔を合わせていたが、
いつもはやや気が強そうな印象が強く
彼女のそんな顔は初めてみたかもしれない。
「できる限りのことはした。日詠クンも・・・だけど・・・」
『・・・ベビーは、、、ダメだったんですか?』
レイナの体だけでなくベビーの体も気になって
つい口にしてしまった。
レイナがこうなる前、ベビーが生まれてくることを
本当に喜んでいたから・・・だから気になって仕方がなかった。
「赤ちゃんは新生児仮死状態だったけれど、蘇生したわ。でもまだ予断を許さない状況で。」
『そうか・・・』
「日詠くんもこことNICUを行ったり来たりして、昼夜を通して殆ど休んでないんだと思う。そんな中、ICUにいる間はずっとこんな感じなの。」
『・・・・・・』
もう一度、彼らを見た。
彼女の手に触れる彼の横顔は
医大時代から彼を知っている俺も見たことのないような
弱々しい顔。
「もう見ているのも辛くて・・」
『・・・オレもです。』
「悔しくて・・・」
『・・・オレも・・・です。』
汗が染み込んだスクラブ(手術着)に白衣を羽織った姿の奥野さんも日詠さんと同じくらい憔悴しているように見えた。
涙を堪えようと必死な彼女の苦悩
オレの胸の中にもある苦悩
日詠さんのことを大切に想っているであろう奥野さんと
レイナのことが大切なオレ
でも、
レイナのことも大切に想っているであろう奥野さんと
日詠さんのことも一応大切に想っているオレ
大切なふたりをどうにかして守りたいのに
それができない
・・・そんな苦悩