ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
ピッ。
森村の声が消え去った携帯電話の通話終了ボタンを押し、俺はICUへ足を向ける。
ICUに伶菜が移ってからの3日間
その間、ICUに入室する直前はレイナがどうなっているか不安で足がすくんでいたのに
支えてくれている人達のおかげもあってか
この時、初めて地に足がついたような感覚を得られた
地に足がちゃんとつけば広がる視野
それまで気がつかなかったことにも
気が付き始めたりするものだ
知人だけでなく、さほど関わりのなかった人達にも
気を遣わせてしまっていたこととかにも
「日詠さん。NICUに面会に行ってらっしゃったんですか?」
『ええ・・・まあ。』
ICUに戻って手を洗っている時に丁度通りかかった伶菜担当ではない看護師に声をかけられた。
「ご自宅には戻られてます?」
『いえ、夜中も娘が泣いたら抱っこをしてあげるためにNICUに呼んでもらうようにしてあるので、院内の待合室で休ませてもらってます。』
こんな会話は久しぶり。
こういう声をかけてもらえる隙すら
俺にはなかったんだろう。
「そうですか・・・でも無理なさらないで下さいね。何か困ったことがあったら担当でなくてもいいので遠慮なくお申し出下さい。」
『ありがとうございます。』
この看護師だけでなく
ひとりにして欲しいと告げて気を遣わせてしまった奥野さんも
気分転換にもなるからと産科スタッフルームにあるシャワールームを使うように勧めてもらい、そこを使わせてもらったりしていた。
ひとりにして欲しいと言ったのに俺はいろいろな人に支えられていて。
だからもうそんなことは言えないと思った。
『もう前の俺には戻れない・・・・・自分ひとりでお前を探していた頃にはもう。』
相変わらず目を閉じたままの伶菜の手を握り締めながら呟いた。
『だから・・・・目を開けてくれ。』
それでも動かない
彼女の手も足もそして顔も・・・・・
彼女の生命力を信じたいという想いと
目の前の現実を受け入れなくてはという想い
そのふたつの想いから逃げるように
上半身だけ体をベッドに伏せ、彼女の手を握ったまま目を閉じた。
このまま時間が止まってしまってもいい
いや
止まってしまえばいい
連日の疲れが溜まっていたせいか
そんなことが頭を過ぎった俺は
そのままその場で眠ってしまっていた。
そんな俺が目を覚ましたのは
背中に掛けられていたブランケットの重さ
そして
かすかに指が何かに触れられた感覚
・・・それらによってだった。