ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
Hiei’s eye カルテ26:motivation
【Hiei’s eye カルテ26:motivation】
散々迷った挙句に選択したのは
ICU医師が提示した食事によって栄養を摂るために人工呼吸器を取り替えるという治療方針だった。
決め手は
“最善を尽くす” という言葉に対する解釈を丁寧に語ってくれていたICU医師を信じようと思ったこと。
それだけではなく、
伶菜が俺の指を探るように彼女の指をゆっくりと精一杯に動かそうとしている様子を目の当たりにした俺は
今のままではいけない
そう思ったから。
そんな俺が治療方法を選択した際にICU医師にお願いしたこと。
それは
彼女にできるだけ付き添わせて欲しいということ。
付き添い不要の完全看護のこの場所で
付き添いを願い出るのは非常識なことはわかっている
今はもう主治医の技量を疑ったりもしていない
それでも彼女に付き添いたいと考えたのは
今まで俺は忙しさを理由に
大切な時にも彼女をひとりにしてしまっていたから・・・・
彼女の意識がしっかりしてきている今
心不全状態と闘うことは気力が重要になる
こういう時ぐらい
傍にいて少しでも支えになれたら
そう考えたから
「日詠さん、奥様の意識、戻ってきたそうですね。」
『・・・おかげさまで。』
「ベビーもかなり復調してきました。この分ならあと1週間ぐらいで退院できるかもしれません。」
『ありがとうございます。橘先生をはじめ、NICUスタッフの皆さんにも本当にご尽力して頂いて・・・感謝しています。』
もうひとつの大切な命を救って下さったNICUの橘先生
ICUで生まれたばかりの赤ん坊をNICUへ移送した時の厳しい表情だった彼とは異なり、
子どもと向き合う診療科らしい穏やかな表情。
伶菜よりも早めに回復し始めた赤ん坊だったが、彼女もかなり重い症状だった。
橘先生はそんな娘への手厚いケアはもちろんNICUとICUを行き来している俺の体調も気遣ってくれて。
いつもはケアする側である自分がケアをしてもらうのも
初めての経験だった。
「そういえば、日詠さんからお申し出があった件ですが・・・」
『やはり難しいでしょうか?』
病気と闘っている大切な家族の力に
少しでもなるようなことを探すことも初めてだった。
そんな中、自分なりに探し出した答え
それは
伶菜に赤ん坊を会わせてあげること。
彼女と同じように頑張っている赤ん坊に会うことで
少しでも今の状況と闘う意欲が持てれば・・・・
今の俺には
それぐらいしか思い浮かばなかった。