ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
「今の体調なら、短時間であれば大丈夫でしょう。ただし、NICUの看護師に同行してもらうというのを条件に。奈良くん、今、ICUへ同行できる?」
「今なら大丈夫です。」
「早速、行きますか?そろそろ目を覚ましそうですしね。」
『・・・ええ。きっと彼女も待ってますから。』
キャスター付のベビーベッドの中で手足をごそごそし始めたベビー。
NICUに入室したばかりの頃に体温管理のできる開放型保育器に寝かされていた彼女と比べると、今の彼女の顔色は明らかに良く見えた。
「日詠先生もお父さんなんですね。」
『・・・・・・?』
「日詠先生ぐらい名が知られているドクターでも、夜中、娘さんが泣いたら、NICUに来て下さって抱っこしてあげてる姿は、ここでよく見かけるお父さんだなって。」
ICUに向かう廊下で奈良さんというベテラン看護師がベビーベッドを押しながらそう声をかけてくれた。
『ちゃんとお父さん、できているのかどうだか・・・正直わからなかったりするんです。』
「心配いらないですよ。ちゃんとお父さんしていらっしゃいます。赤ちゃんもぐずること少ないですしね。」
奈良さんというベテラン看護師も
数多くの患者と共に
その家族をも多く見守ってきたのだろう
伶菜の前で医師でいられなかった俺が
せめてお父さんという役割を果たそうとしているのをサラリと読み取り、
お父さんでいさせてくれている
『お父さん、か・・・』
「ええ。」
話をしているうちにICUの入り口に着いた。
手洗いを終えると、奈良さんはベビーをベッドから持ち上げて俺に手渡した。
「お父さん。自信持って、赤ちゃんをお母さんに会わせてあげて下さい!」
小さいのに重みを感じる彼女を両手で受け取った。
『ええ。』
すぐさま身体のほうに引き寄せた。
新生児独得の柔らかい香りと共に感じた
彼女の身体の温かさ
彼女こそ伶菜を救ってくれる
そう思いながらICUの中を彼女と一緒に歩みを進めた。