ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
「伶菜さん。赤ちゃん、来てくれましたよ。」
点滴を取替えに来てくれていた様子のICU看護師が伶菜に声をかけてくれた。
「・・・・・・・」
黙ったまま俺達のほうへ目を向けた伶菜の右手の指先が動く。
『伶菜、ベビー、連れてきた。元気だろ?』
ゆっくり頷いてくれた。
俺の言葉を噛み締めるように。
『ベビーも危なかった。でも生きようと頑張ってる。』
ベビーに触れようとしたのか、彼女の右手が少しだけ宙に浮いた。
何かが変わる
そんな気がした。
『抱っこしてみる?』
さらに右手が宙に浮いた。
まるでベビーを受け取ろうとでもしているように。
『ほら。キミのお母さん・・・だ。』
そう言いながらベッドに横になっている彼女の右腕に抱え込ませるようにベビーをベッドの上に乗せてあげた。
ゆっくり動く彼女の右手。
とうとうベビーの背中にその右手が触れた。
『伶菜・・・・・・』
彼女が目を覚ましてから初めて見たもしれない。
彼女らしいパッと華が咲くような笑顔。
それはベビーだけでなく
俺にも向けてくれた。
『・・・・・・・・・』
嬉しかった
本当に
この瞬間をどれだけ待っていただろう
この瞬間を迎えることができないのではないか?
彼女のひんやりとする手を握ったまま
そんなことまで考えたこともあった
時間がとてつもなく長く感じて
苦しくて
本当に苦しくて
途方にくれた瞬間だってあった。
それでも
伶菜を見つめた
ベビーを見守った
それが俺にできる
唯一の
そして
全てのことだった。