ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活


いつの間にか福本さんの声が電子音に変わっていて。
俺は慌てて通話終了ボタンを押し、PHSを白衣のポケットに投げ入れ、廊下を再び歩き始めた。



「さっきER(救命救急センター)へ運ばれてきた右脳梗塞の患者さん、t-PA、トライします?」

「発症してどれくらい?」

「3時間と10分くらいらしいです。」


すれ違う医師達の緊迫感のある会話もどこか他人事で。
でももし、さっきの福本さんからの電話が、妊婦検診未実施の臨月妊婦さんの緊急搬送の知らせとかだったりしたら、俺は正しい判断とかがちゃんとできたのだろうか・・・?

そう思うと医局へ戻る足取りもより一層重く感じる。




「日詠先生、、、あの!!!!!!」


背後から聞こえてきた女性の大きな声。
そちらへ振り向くと、心配そうな表情を浮かべた産科の後輩医師である美咲が立っていた。


「大丈夫ですか?何度も声かけたんですけど。PHS応対する前からずっと。」

『えっ?』


そんな前から声をかけられてたのか?!


「体調が優れないとか?」

『・・・いや、大丈夫だ。』


気持ちはあんまり優れないけど



「ちょっと相談があるんですが・・・」

『あっ、悪い。学会の抄録だろ?まだ目、通してないな。』

「それもですけど、そうじゃないんです!!!!」


そうじゃない・・?

相談があると言われているのに
それでもまだ俺はいまひとつ集中し切れていなかった。


『何?』

真面目な美咲のことだ
彼女が言う相談事はきっと大したことであるに違いなかったのに


「この患者さん、臨床心理にフォローしてもらおうと思っているのですが・・・・」


差し出されたのは
産後うつ徴候があるらしい30才女性のカルテ。
カルテに目を通すことで
とにかく頭を動かし始めるよう心がけた。

そんな俺の隣で

“患者さんは出産後、気分の落ち込みが激しく、生まれてきた赤ちゃんを自分が育てられる自信がないということです”

と美咲が補足説明をしてくれた。



『・・・そうか。いいんじゃないか?』

「この患者さん、高梨さんにお願いしようかと思っています。」

『・・・・』



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