ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



伶菜以外の女性から発せられる“好き”という言葉には
どう反応していいのかいつも戸惑う
いくら過去形の表現であっても・・・・


「携帯で話す声がいつもよりも優しかったり、通話を終えた後、目を閉じ穏やかな顔をするのも。その姿を見るたびに電話の相手はきっと高梨さんなんだろうななんて思ってみたり・・・」

『・・・・・・』


小さく瞬きをしながら俺に語りかける美咲。


「私、あんまり他人より劣っているとか感じたことはないんですけど、日詠先生のそんな姿を見かけるとやっぱり高梨さんには敵わない・・・そう思わされるんです。今でも。」

そんな風に見られていたのか・・・・


「でも、私がこうなりたいって目指している日詠先生が、前へ進めずに足踏みしている姿とか見たくないんです。」


足踏み、か・・・・


「だから、どんな手を使っても日詠先生の背中を押してあげたいんです。生意気かもしれませんが。」


それでも
美咲にここまで言わせても俺は
伶菜にその患者さんを任せることに対して首を縦に振ることはできなかった

もしかしたら
伶菜と俺の関係
一緒に患者さんを助け合うという仕事上でのパートナーという関係だけでなく、夫婦という関係までも壊れてしまうかもしれないことを恐れて


「この患者さんはきっと、高梨さんに救われる・・・私はそう思ってます。」

『・・・・・・・』


真面目すぎて
あんなにも(もろ)いと思っていた美咲


「だから、私は彼女に自分の患者さんを託します。それじゃ、失礼します。」


だがそれは
俺のただの思い過ごしだったに違いない

そう確信せずにはいられない


『ああ。』

小さな声だが何とか返事をした俺に美咲ははっきりとした口調でそう告げ、足早に医局とは反対方向へ行ってしまった。

その後ろ姿は今までに見たことのないぐらい
毅然とした医者らしい美咲の姿だった。


高梨伶菜という臨床心理士を信頼し、
彼女に医師として大切な仕事を託す医師という姿

後輩に教えられたあるべき医師としての姿


伶菜との関係が壊れてしまわないように弱気になっていた俺は
美咲に“信じて見守る”という支え方を教えられた

もしこれから美咲が伶菜とやろうとしていることが上手く行かなかったら
今度は俺がどんな手段を使っても支えよう
だから今は彼女らを信じて見守ろう

彼女らの先輩という立場で・・・・


俺は白衣の襟を両手で正しながら医局へ戻り、自分のデスクにあった書類記入の作業に取り掛かることにした。

自分がやるべきことをいつも通りすること
そんなのは悪あがきにすぎない

けれどもそんなことでしか今の自分は
“冷静さ”というモノを取り戻せそうにないから
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