ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
Hiei's eye カルテ8:with you
【Hiei's eye カルテ8:with you】
ツー、ツー、ツー・・・・
いつもなら無機質なこの電子音には用はない。
でもこの時は目を閉じながらしばらくそれを聞いていた。
電話をかけても、結局、伶菜を上手く励ましてやることなんてできなかった
俺にできることは何か?
仕事上での立場としては、臨床心理士としての彼女を“見守ること”
それはわかっている
でも彼女の夫としてできること・・・
それは携帯電話を耳に当てたまま
せめて伶菜がどうか明日に繋がる今日を過ごせるようにと願うことぐらいなんだろうか・・・・?
ギイイイイ・・・
『はぁ~。』
医局のデスクチェアの背もたれに体を預けながら、チェアが軋む音とともに大きな溜息をつく。
「日詠先生、お疲れですか?」
『ははは』
「そんな時にすみません。これ、先生からご依頼のあった双胎間輸血症候群患者へのレーザー術の欧米データ文献です。」
産婦人科専属の医局秘書の片平さんに声をかけられた。
『ありがとう。助かるよ。』
自分だけでなく、他の産婦人科医師の秘書も勤めている彼女。
多忙なはずなのだが、依頼した仕事をテキパキとこなしてくれる。
「またなにかありましたら、いつでも声かけて下さいね。」
ニッコリと微笑みながら、温かい緑茶までも差し出してくれる彼女も信頼のおけるスタッフ。
そんな彼女がもしかして何かをヒントをもたらせてくれるかもしれないとなぜかこの時ふと感じた。
『片平さん』
「日詠先生、早速、どうぞ。」
『お願いがあるんだ。』
俺は総務課にある物を作成してもらうように頼むよう片平さんにお願いした。
ちゃんと事情も丁寧に説明した上で。
「わかりました。先生。それにしてもカワイイとこあるんですね。顔、赤いですよ。」
『・・・・・・・・・・』
「でもまあ、私は正しいと思いますよ・・・・・・総務課とかけあうの、ちょっと面倒なことになりそうですがやってみます。」
『すみません・・・』
「いいえ、秘書ですから。微力ながらお役に立てれば・・・早速、総務課に行ってきます。」
『ありがとう・・・宜しく。』
片平さんは小さく微笑みながら会釈をし、医局を後にした。