ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活


その甲高い声の呼びかけによって私もつい後ろを振り返ってしまった。

そこにはカルテを抱えたナオフミさんが立っていた。


「日詠先生、丁度よかったです。」

「・・・・・・・・どうかした?」


谷本さんに声をかけられたナオフミさん。
ついさっきの私達の会話は聞こえていなかったのか、冷静に受け答えをするいつもの仕事中の彼のように思われた。


「昨日の朝、私、見たんですよ~。監査室の前で日詠先生がこの人を抱きしめていたとこ。」

「・・・そう。」

抱きしめているところを見たと言われているのにそれでも表情ひとつ変えない彼。



「否定とかしないんですね。日詠センセ、“いいひと”だから・・・・この人に期待とかさせちゃかわいそうですよ・・・どうせこの人が監査室に呼び出されたショックで泣いてたところに通りかかった日詠先生が慰めただけなんですよね?」

そんな彼に谷本さんはさっきよりもやや高い声でなんだか楽しそうにそう話しかけた。
それでもナオフミさんの表情は相変わらず変わることがなくて。


慰めただけ
期待させちゃかわいそう

そうだよね?
私と彼の関係を知らない人はそう思うんだ


仕方がない
私と彼は結婚していることを公表していないわけだからそう思われても・・

でも今後、病院内でナオフミさんとやりとりをしていると
これからもこうやっていろいろ言われちゃうのかな

結婚の事実を公表しないように仕向けたのは私だけど
こういうことがあるとやっぱり切ないな


「ちょっと、谷本!!!いくらなんでも言い過ぎよ!」

そんな私の心の中を見抜いたのか、安田さんがやや慌てた様子で谷本さんを制止した。


その直後


「・・・・・期待、、、か・・・」


ナオフミさんがこぼしたその言葉。
その声には溜息も入り混じっているようにも聴こえて。


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