ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活


その声は
いつも私が耳にしているような穏やかな声なんかじゃなくて
安田さんと患者情報を話していた時のような
低くてやや鋭さまでもが感じられるような声


昨夜、電話越しで
臨床心理士としての自分、パートナーとしての自分を認めてくれるような感覚をくれた彼

その彼のいつもと異なる声が
今度は私を産科のスタッフの一員として認めてくれているようで
嬉しい

けれどもそれと同じくらい
前田先生の事件で動揺してしまった私なんかが
本当に臨床心理士として産科の患者さんをちゃんと支えられるのか?
という戸惑いも感じずにはいられない


そんな気持ちを私にもたらした彼はNICUへ向かおうと再び歩き始めた。
彼独特のサンダルの擦れる音と共に。

しかし、彼はナースステーションの出入り口に差しかかった辺りでまた立ち止まった。
エンジ色の手術着を身に纏い、首元にマスクをぶら下げた格好の美咲さんとすれ違いざまに言葉を交わすために。

その一瞬で
彼らが何を話したかは
自分がいるこの場所からはわからなかった。

そのまま歩いて出て行ったナオフミさんの表情を窺うことができなかった。
けれどもこちらに向かっていた美咲さんはというと力強さを宿した瞳をしていて。
瞬時に下唇をグッと噛み締めたようにも見えた。



3年前、産科医師としてやっていけるかの不安がある中で
先輩医師のナオフミさんに支えられながらここで従事していた頃の彼女の雰囲気とは違って。
その姿はナオフミさんと対等な立場にも感じられて・・・全くの別人に見えた。


「高梨さ・・・」

そんな彼女が私の名を呼びかけている最中に立ち止まってしまった。
その時の彼女の瞳はついさっきとは異なり、大きく揺れていた。
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