ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
Hiei's eye カルテ10 bitter taste
【Hiei's eye カルテ10:bitter taste】
『小柳さんベビー、どうです?』
「呼吸が若干不安定ですが、落ち着いています。夕方からでも搾乳した母乳をまずは経鼻から入れてみる予定です。」
『・・・・とりあえず、良かった。』
ようやく温かい日差しが降り注いできたNICU(集中治療室)。
新生児の体温を維持しやすいようにここの室温は若干高めに設定されているせいか、暑さを感じた。
それだけでなく、あちらこちらから心電図のアラーム音が聴こえてくる。
そんな緊張感の高い状況の中、俺の担当産婦の小柳さんは彼女が産んだ赤ん坊を包み込むように抱きしめていた。
微笑ましい光景のはずだが、気がかりなことがある
それは彼女の顔色があまり良くないこと
彼女は出産前からずっと妊娠高血圧症候群に罹患していて
出産後の今でもまだ血圧が高い影響だ
今は病室でゆっくり体を休めたほうがいい
産科医師としては今、ここでそう言うべきなんだろう
でも、
『血圧、いつでも測定できるように用意しておいて欲しい。あと、大人用のストレッチャーも。』
「ストレッチャーですか。バックヤードから持ってきておきますね。」
NICUの中央にあるナースステーションデスクに腰掛け、看護師さんとそう話しながら小柳さんの様子を窺うことにした。
小柳さんの体調の急変には俺が対応すればいいから。
そんな中でも俺は伶菜のその後が気になった。
今の俺は彼女を見守ることしかしてやれない。
その彼女を託した美咲とすれ違った際、俺が “頼むな” の一声をかけた。
その時、美咲は俺にこう返してきたんだ。
「任せて下さい。」
落ち着いた声色
いつも気にかけていないといけない後輩だったのに
こんなにも頼もしい同僚になった美咲
一番苦しいところから這い上がった人間は
こんなにも強くなるんだ
俺と再会したばかりの伶菜だって
ちゃんと這い上がってこれたんだ
伶菜
前田医師の件で臨床心理士として対応できなかった自分を責めているであろうお前は
きっと今も苦しいだろう?
過去、美咲もちゃんと這い上がってきた
だから
お前ももう一度、這い上がってこい