この街のどこかで
忘れられない恋のこと
『幸せになって欲しいと思ってるんだよ』
口から出た言葉の半分は本当で、半分は嘘だ。
ボンッ、と投げられたクッションが勢いよく壁にぶつかった。
自分の顔の横を通り抜けていったそれは、彼女――日置藍の感情を告げている。
怒りか、悲しみか、悔しさか……少なくとも、喜びでないことは確かだ。
そのことに少なからず安堵を覚えるなんて、馬鹿げている。
願う“幸せ”とは相反する感情であることに、安堵するなんて。
『ごめん』
聞こえたかどうかも分からないほど小さなひとことを置き去りにして、俺は鍵も持たずに家を出た。
ポケットにあるスマホが揺れる。
藍からの連絡では無いことは確かだ。
きっと、マネージャーだろう。
オフの日くらい放っておいてくれればいいのに。
それとなく画面を上滑りするように確認して重要な案件だけ頭にインプットする。
ポケットにまたしまい込んで、歩いて向かったのは繁華街から一本入った道路脇の公園だ。
大きな地球儀のような遊具と、小さな滑り台。
4つ横並びのブランコだけの小さな公園。
ここのブランコからは奥の繁華街がよく見える。
動く人波、雑踏、耳障りな街頭CM。
俺はスマホに繋いでいたイヤホンで耳を塞いだ。