この街のどこかで
箱に入れられて大人しくしていた豆太を、困ったように見つめていた彼女が印象的だった。
きっと、飼うことも出来ないのなら安易に近づくべきではないと、それでも見てみぬふりもできずに悩んでいたのだろう。
俺が豆太に近づいて行くのを恐る恐るといった様子で見ていたから。
あまりにも心配そうに見るものだから思わず、ちゃんと保護するから大丈夫だよ、と声をかけたのだ。
出会ったその時から積極的だった彼女は、豆太の世話を一緒にしたいと申し出てきた。
悪意も裏も無さそうなその瞳に自分の中に滞っていた毒気のようなものが抜けて頬が緩んでいることに気づいた俺は、その申し出を自分でも驚くほどすんなり受け入れたのだ。
それから時間を重ねて関係が変わることに、抵抗もなく告白を受け入れた。
そして共に過ごす時間が増えるたびに想いは強くなり、その分、その手が離れていくことが怖くなった。
長く時間を共にすれば情がわく。
それは恋情、深い愛情と変遷を経るならばいいけれど、年若な彼女に、もし『別の誰か』が現れたとしたのなら、僕と彼女の間に残る情はきっと同情だろう。
来てもいない未来に怯えて、彼女の手をいつでも放すことができる準備をする。
それを感じ取った藍は、友達の同棲の話を持ちかけたのだろう。