この街のどこかで
この街のどこかで
結局ぐるりと歩くだけの格好になって、帰宅した頃には空は茜に染まっていた。
朝干した洗濯物がしけってなければいいな、なんて、俯いた思考に耽らないようにぼんやりと考えた。
リフレッシュする為にもらったオフが、気分をふさぎ込んでしまうなんて申し訳ない。
申し訳ないなどと思いつつも、この感情の子細をメモに認めたい、と思ってしまうのは職業病だろう。
どこか冷静な自分がいることに笑いが込み上げる。
だってそうだろ?
何があったって、たとえ誰かが死んでしまったとしたって、きっと俺は塞ぎこむ感情とは別のどこかで俯瞰して自分のことを観察してるんだ。
およそ人間らしくない、壊れてる。
こんな自分の隣に好きな人がずっと側にいるなんて、藍が可愛そうだ。
家のドアを開けると、まだそこには藍の靴があった。
それに驚くことはない。
先程、ポストを確認したらダイレクトメールばかりで部屋の鍵がなかったことからそれについては予想していたから。
「おかえり」
藍は僕のCDを聴きながら待っていた。
豆太は藍の足元で眠っている。
安心しきった顔だ。
うつむいている藍の表情は分からない。
俺は躊躇いながらも、そこにいた藍に安堵して「ただいま」と返した。
手を離そうとしながらも、藍が可愛そうだと思いながらも、そこにいてくれることに安らぎを覚えるなんて我ながら矛盾もいいところだ。