お前は、俺のもの。
「カフェの発注データか」
そう言われて、初めて自分の後ろに人が立っていたことに気づく。
低い声と一緒に漂ってくる、ひんやりとした空気。まるで「まだ終わらないのか」と言われてるみたいだ。
振り返らなくても、声で誰かわかってしまう。
鬼課長…じゃなく、一ノ瀬課長だ。
「す、すみません。入力が終わったら帰りますので」
と、恐る恐る背中を向けたまま頭を少し下げ、キーボードの手を動かした。
自分の担当ではないけど引き受けた以上、こう言うしかなかった。
しかし。
「自分の担当の仕事でもないのに残業してまで引き受けるとか、お人好し過ぎるだろ」
そんなセリフに「自分でもお人好しだと思うよ」と、心のなかで苦笑する。