お前は、俺のもの。
鬼課長は私の後ろに立ったまま、話を続ける。
「それ、河野がお気に入りの事務の女の仕事だろ?」
──河野くんが、お気に入りの?
動いていた両手が止まり、私は振り向いた。
黒い前髪の下にある逆三角形の瞳と視線が交わる。草食系より肉食系の瞳だと思った。
彼はスマホで操作して、その画面を私に向けた。
「小堺のSNSだ。お前に仕事を押し付けた後輩は、会社の仲間とイタリアンで飲み会だ」
「……」
その画面を見て、呆然とした。
十人くらいのメンバーでみんなお酒を片手に楽しそうだ。真ん中あたりで由奈が甘そうなカクテルを頬に当てて笑っている。その隣には河野くんと小堺るみの姿もある。
「残業できない理由って、これだったんですね…。理由、ちゃんと聞いておけばよかった」
今さら仕方がない。
それにデータの入力は残り二ページだ。二十一時半くらいには終わるだろう。
私はデスクに向き直って、キーボードを叩き始めようとした。