お前は、俺のもの。


…え?

右手首を、指が長くて大きな手に、そっと包まれる。その部分が仄かに熱を帯びて、思わずドキッと胸が鳴った。

ゆっくり見上げれば、すぐ斜め上に整った顔があった。

──綺麗な顔してる。てか、近いかもっ。
グンッと顔が熱くなる感じがした。

「俺が代わる。お前は着替えてこい」
「え?でも」
「この発注リストは元は俺が出したやつだ。内装デザインを描いたからな。河野はそれに少し肉付けをしただけだ」
と、戸惑う私を余所に、鬼課長は私を引っ張りあげて立たせた。

「ここは俺がやっておくから、早く行け」と、彼は躊躇いなく私の椅子に座って、リストの続きを確認し始めた。

──本当に任せて大丈夫なのかな。
申し訳ない気持ちと、少しだけ心配な気持ちが隠せない。

「あの…本当に、大丈夫ですか?」

私の言葉に、彼はギロリと視線を向けてきた。

「俺を、誰だと思ってる?」

ひぃっ。
一瞬で全身が凍った私。

どうやら私が彼を軽く見たと思われたらしい。頭の上に、うっすらとツノが見えた気がした。
「す、すみませんっ。すぐ着替えてきます」
と、彼にペコリと頭を下げてロッカールームへ急いだ。
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