お前は、俺のもの。
部屋に辿り着き、荷物を置いて玄関に鍵をかけると、
「…んっ」
と、私の体を壁に縫い付け、両方の手首を押さえつけられたまま、唇を塞がれる。驚きのまま口を少し開けていると、鬼の牙で下唇を甘噛みされた。
頭が真っ白になる。全身の力が抜けて、その場にズルズルと崩れそうになるのを、逞しい腕に抱えられた。
荒々しいキスが、一度離れた。
「はぁ…はぁ…」
呼吸が苦しくて、頭の芯がジンジンと痺れる感じがする。
鬼は眉間に皺を寄せた苦しそうな顔で、私の頬に唇を寄せた。いつの間にか流れ落ちた涙を、小さくペロリと舐める。
「お前の元カレを見たら、無性にムカついた。あんな奴に、こんな風に顔を赤くさせて、キスして抱かれたと思うと…」
掠れた声で、悔しそうに言う。背中に回す腕の筋肉が固くなった。
「俺が先にお前を見つけていたら、あんな奴に取られなかった。ムカつく」
キスの刺激で、まだ頭がぼんやりしている私。お互いまだ靴も履いたままで玄関で座り込んで抱きしめられている。
私は体に力が入らず、鬼にしがみつくので精一杯だ。
──ん?さっき、何て言った?
鬼の言ったことに、ハッと気づいて顔を上げた。
鬼が「凪、どうした?」なんて甘い声で聞いてくるが、それどころではない。
──どうしよう。私、どうしよう。
過去に付き合っ男は二人。私は三十歳。
だから、きっと信じてくれない。鬼にも恥ずかしくて言えない。
私が、処女だなんて。