お前は、俺のもの。

「お腹いっぱいで、満足です。ごちそうさまでした」
私は大盛りパスタに感謝した。

「ん?」と、向かいの鬼課長を見ると、既に食べ終わっている彼は俯いて身動ぎせず、じっとしていた。
「一ノ瀬課長、どうしましたか?食べ過ぎましたか?」
と、話しかけた時に、彼の水のグラスが空になっていたのを見た。
水を取りに行こうと立ち上がり、鬼課長の横を通ろうとした。

がしっ。

大きな手で、腕を掴まれた。

「…凪」
低い声で呼ばれる。
「お前…今、話したことは、全部本心か?」
「え?今、話したこと?」
俯いて質問する彼に、私は首を傾げた。
「お腹いっぱいで満足…」
「違う。その前にダラダラと喋り倒したことだ」

──ダラダラと喋り倒した…。

パスタを食べている間は特に鬼課長と会話したわけでもなく、ただ頭の中であれこれと思い浮かべたことはあったが…。

え。

まさか、あれこれ全部が、口に出ちゃってた?

「?!?!?!」
今までにない動揺が、私の体を駆け巡る。
全身がガクガクと震えだす。

──彼を「鬼課長」と呼んでいたこともバレた?

鬼課長は私の腕を掴んだまま、ゆっくりと頭を上げた。
「!」
サラリと揺れた前髪の上には、口をへの字に曲げ、耳まで赤く染まった鬼課長の顔があった。
彼は無愛想な口調で言った。

「お前の言う、俺がイケメンとか女にモテるとか川添がどうとか、そんなものはどうでもいい。俺の料理を毎日食べたいとか、俺と一緒にいることが嬉しいとか…」

彼の言わんとすることに、私の不安が膨らむ。

「俺の知りたいことは、一つだけだ」

逆三角形の瞳に映る、私の怯える顔。

彼は、私だけを見ていて。
私も、彼だけを見ていて。
ドキドキと脈打つ心臓が煩くて。

「凪は、俺が、好きか」

どくんっ。
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