お前は、俺のもの。

俺はまだ、言い足りない。

「しかし、あなたも変わった人ですね。普通、本当に真面目に付き合いたいと思うなら酔い潰れた俺でなく、素面の俺からの言葉を真に受けるものだと思いますけどね」

途端に、女の表情が固まった。
「まあ、いいです。どちらの俺を信じるかは、あなたなんですから。酔っ払った俺を信じたのならそうしましょう。今からあなたは、俺の彼女です。ですが、俺は基本は仕事を優先するので、あなたの希望は叶えられないことがあることを覚えておいてください」


それから俺から別れを切り出すまでの間、川添穂香と接することはなかった。俺は彼女と恋人関係にあることを否定しなかった。
彼女は俺以上に「付き合っています」と周りに公表して、空想で膨らんだ「恋人物語」を話して聞かせていた。

これが案の定、「使えた」のだ。
川添穂香という「俺の彼女」は、俺に声をかけて誘ってくる女達を一蹴させ、おかげで仕事が順調に進んだ。その上、親父は俺が川添穂香と付き合っていると知ると、それまでチクチクと言っていた見合い話もピタリと止まった。

「川添穂香」の名前は絶大だった。
彼女に与えた「俺の彼女」という位置は、俺に「仕事」と「時間」と「平穏」を与えてくれた。

その川添穂香と別れると決めたきっかけが「満島 凪」だ。
それは俺だけの真実であり、実際には全く違う話が彼女と別れた原因として広がった。
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