お前は、俺のもの。
初めて満島 凪を見たのは、ショールームで行われる新商品のセレモニーの準備の時だった。
その日は午後から新商品「SAKURA」のセレモニーがあるショールームへ、昼休みがてら顔を出した。
社長の息子と知る社員たちは「お疲れ様です」と、腫れ物に触るような言い方で頭を下げていく。そんな扱いに慣れた俺も「お疲れ様です」と普通に返せるようになったのは、まだ最近のことだ。
新商品のエリアへ足を踏み入れる。
俺は少し離れたところから、小学校の発表会のお芝居で設置された小道具のような家具の置き方に、「プロ意識が低すぎる」とうんざりした。
すると、春川専務が川添穂香を連れてやってくるのが見えたので、近くの柱に隠れて動向を見ることにした。
「僕が決めた配置は、やっぱりイイね」
と、春川専務が満足そうに商品の全体を見て頷いている。
彼が色んな角度からそれらの新商品を見て歩くため、川添穂香はタブレットを片手に見ながら少しずつ後退りしていた。
その時だった。
川添穂香の背中が、後ろの箱を積み上げた大きめのワゴンとぶつかった。
「あっ」
彼女の声と同時に、ワゴンに積まれた箱がグラリと揺れて一斉に崩れた。
大きな音と一緒に床へ落ちて散乱する箱たち。驚いて注目する社員たち。
川添穂香の近くにいた女性が「それは」と声を上げた。