お前は、俺のもの。

床を見ると、空いた箱から飛び出したのだろう、桜の花びらが焼印された紅白の和菓子があちこちに転がっている。今日のセレモニーで招待客の手土産として用意された粗品だった。

箱やお菓子が散らかった真ん中で、髪を乱して床に座り込む川添穂香は、数秒間ほど放心状態だった。
そしてハッと気がついたように立ち上がり、フロア全体に聞こえるほどの大声で怒鳴ったのだ。

「誰がここに、こんなものを置いたのよ!手土産は出入口付近に置くのが鉄則でしょ。早く片付けなさいよっ!」

高温の声がピリピリとフロアに響き、全員が彼女に視線を向けた。近くの数名の社員たちが片付けを始める。
川添穂香はタブレット片手に、スカートの汚れを払い、手ぐしで髪を整えた。
「時間が無いのよ。お菓子の補充もやっておくのよ」
と、顔を顰めて床の箱やお菓子を避けて歩いていく。

──自分がぶつかっておいて、片付けの手伝いも、謝ることもしないのか。

自分の非を認めない彼女の態度に「あの女らしい」と思う反面、「女の性格」を疑った。


春川専務と川添穂香と入れ違いに、ショールームに現れた女がいた。
事務服を着てパンフレットを抱えた小柄な女だ。目を丸くして近づいてきた。
「二階で大きな音が聞こえたからビックリしたんですけど…どうしたんですか?」
と、床の惨状を見て慌てて箱やお菓子を拾い上げる手伝いを始めた。そしてスタッフが彼女に「川添穂香がセレモニーの手土産をひっくり返したのだ」と説明していた。
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