お前は、俺のもの。
満島 凪だと知ったのは、それから数日後のことだった。
営業部の斉木係長(現在は斉木課長)へスケッチパースを持っていくと、彼のデスクで話をしている事務服の女性が目に入った。
あのセレモニーの手土産で機転を利かせた事務服の女だ。
斉木係長が俺に気がついて手を上げた。
「お疲れ様」
柔らかい微笑みを浮かべる彼に、俺も挨拶をしてスケッチパースを渡す。彼はそれを見つめて「いいね」と、目を細めた。
別方向から視線を感じて目線を変える。
事務服の女が、あの時と同じように目を丸くしていた。
斉木係長が彼女に気がついて、
「あれ?満島は彼に会うのは初めてかな?」
と聞いた。
──満島、というのか。
俺と向かい合う「満島」は、見上げてコクコクと頷いて「はい」と答える。
「お噂は聞いています。営業企画課の一ノ瀬主任…ですよね?」
と、遠慮気味に聞いてくるあたり、丸みのあるウサギかハムスターに似ていると思った。
「営業企画課の一ノ瀬です。よろしくお願いします」
と、先日の一件で顔は知っているが、初対面のフリをしてみた。
「満島」は視線をキョロキョロさせながら、恥ずかしそうにポツリと言った。
「え…営業事務の、満島 凪です。よろしくお願いします」
と、頭をぺこりと下げた。