お前は、俺のもの。
「ここの料亭のお料理、とても美味しいわ」
川添穂香は機嫌良く、鱧の八幡煮を口にする。
料亭「葵」は、旬の食材を生かした見事な料理を作る料理人がいるらしい。ネットで調べると、鱧料理が人気だと書いてあるので、鱧懐石を個室で予約した。
鱧の木の芽揚げ、鱧の梅肉和えと、料理が進んでいく。
この時点まで、この女にどうやって別れ話を切り出そうかと考えていたが、満足な顔で料理を平らげていく相手に考えることをやめてしまった。
「彼女」とはいえ、ろくに話もしたことがないだけに、何を考えているのかわからない。
俺は箸を止めた。
「今日は話したい事があって誘いました」
「でしょうね。私を喜ばすデートなら、もっと派手めなお店を選ぶと思うもの」
マンゴーのデザートを眺めながら、そう言った川添穂香。
なるほど。
別れ話をしに来たのだから華やかな場所ではなく、わざと静かな店を選んだのだ。もし大声で騒いでも、それに相応しくない場所を、と。
川添穂香が構えていると分かったので、本題に入ることにした。
「さすが、専務秘書だけあって、勘が鋭いですね」
俺が口角を上げると、彼女の視線がこっちを向く。その目は笑っていない。
「単刀直入に言いましょう。俺と別れてください」
「何故?」とすぐに返ってきた。
「私は仕事優先のあなたに何も文句を言ってないし、あなたからも私に「彼女」として何もしてもらってないけど、そのことにも何も文句を言ってないわよ」
彼女は鋭い視線を寄越しても、口角は上がっている。