お前は、俺のもの。
さあ、クライマックスだ。
「俺とあなたは、あの日、体の関係なんてなかった」
彼女の体が、ギクリと震えた。
俺は負の連鎖に顔が醜くなっていく川添穂香に、苦笑した。
「そのことは、自分の体である自分がよく知っています。しかし何故、あなたが自分の肌を晒してまでそんな茶番をしたのか、気になったので少し探ってみたんです。でも、それも終わりです」
もう、これ以上彼女と話すことはないと思った。
俺はコートを持って立ち上がる。
川添穂香は座って俯いたまま、ポツリと言った。
「私は、本当に…好きだったわ」
「それは俺を好きなフリをする自分が好きってこと?それとも俺の「彼女」の称号を得た自分が好きってこと?どちらにしても、俺に本気でなかったことには変わりはない。ああ、そうだ」
言っておかくてはならないことを思いついた。
川添穂香は無表情に変化した顔を、ゆっくりと俺へと見上げた。
「俺も謝っておきますよ、あなたに本気になれなかったことを。同時に感謝します。自分がどんな女性が好みなのか、初めて知れた気がしたので」
支払いを済ませて外へ出る。
まだコートが必要な、寒い夜だ。
でも俺の頭の中は、ふわふわとくせ毛を揺らして笑う丸い顔が浮かんで、顔に触る冷たい空気も少し和らぐ気もした。
自らこんな感情をいだいたのは、初めてだった。