お前は、俺のもの。
その後、川添穂香と会うことはなくなったが、彼女との破局説だけはどこからともなく流れ始め広がっていた。
「川添さんと別れたというのは本当ですか」
と、俺に直接聞いてくる勇敢な女性もいたが、隠すつもりはなかったので「はい」とだけ返事をしていた。
満島 凪のいる事務所で仕事をして、彼女を見かけては少しだけ気持ちが癒され、そして帰宅するのを見届けて俺も帰る。そんな日が長く続くと思っていた。
ある日の朝、出勤するエレベーターの前で他の社員たちと一緒に満島 凪を見かけた。
エレベーターが到着して、俯く彼女の顔が少し上がった。
腫れ上がった瞼、泣き腫らした目、浮腫んだ顔。まだ泣き足らない、と言いたげな悲しい表情。
昨日帰る頃にすれ違った彼女は、機嫌良さそうに笑っていたのに。たった一晩で、何があったんだ。
──一体、誰が、何が、あいつをあんな顔にさせた?
やり場のない怒りが、湧いた。