お前は、俺のもの。
「付き合っていた彼氏に別れを切り出されたんだって」
自販機の並ぶ休憩スペースで、俺は斉木係長と並んでコーヒーを買う。向かい合って座る俺は不機嫌だ。
「…どうして斉木先輩が、そんなことを知ってるんですか」
「そんな怖い顔しないでよ。同期の仲間があんな顔していたら、見ていられないでしょ。資料を取りに一緒に資料保管庫へ行った時に、少しだけ話を聞いたんだよ。昨日の夜に会った時に「別れてくれ」と言われたらしいよ」
『出勤日は残業ばかりで会えない。俺と休日が合わない。こんな日が二ヶ月も続いて、俺がお前を信用できるわけないだろ。お前、もしかして浮気してる?とにかく、こんなに彼女に放っておかれて、俺も辛いから 』
斉木係長は缶コーヒーを見つめて言う。
「営業事務の満島の先輩たちは、次々と仕事を押し付けて辞めていった。満島は自分の仕事もあるのに新人の面倒まで見なくちゃいけなくてさ。本当に大変だったと思うよ。彼女は人がいいから頼まれ事が断れず、仕事がどんどん溜まっていく。最近も帰宅時間は二十二時を過ぎてばかり。心身ともに疲れている満島を、彼氏は少しも知らなかっただろうな」
斉木係長は空き缶をゴミ箱に入れる。
「一ノ瀬くん。満島を本気で手に入れようと思っているなら、あの子を信じて可愛がってあげて欲しい」
そう言って、事務所へ戻っていく。