お前は、俺のもの。

満島 凪に、俺は好奇心なのか本気なのか。

振り返った時の斉木係長の、久しぶりに見た真剣な顔に、俺は心臓を握られた息苦しさを感じた。

その日の終業時間が過ぎた、二十時頃だった。

営業部の電話がずっと鳴っている。内線だ。
営業企画課で仕事をしていた俺は、鳴り止まない音に仕方なく営業部へ出向いた。
加瀬課長と満島はそれぞれ電話対応に追われていて、満島は内線を気にしているようだった。

「はい、営業部です」
『ああ、一ノ瀬だ』
内線の相手は、親父だった。
気づいていないのか、「宮田部長は戻っているかね」と聞いてきた。
「席にはおりませんが。見かけたら社長室へ行かれるように伝えましょうか」
『そうだな。そうしてもらおうか』
「かしこまりました。失礼致します」
と、会話を終えて受話器を置こうとした。

『ああ。それからちょうどいい。お前に話がある』
「え?」

なんだ、気づいていたのか。タヌキ親父め。

しかし次に言い出したことは、思いがけない一言だった。
「お前の結婚相手を決めてきた。こちらにとってもいい話だ。来週、食事を兼ねて顔合わせをする。そのつもりで時間を空けておいてくれ」

──なんだと?

いきなり浮上した結婚話に驚愕する。
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